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横浜地方裁判所 昭和57年(ワ)1069号 判決 1984年4月05日

原告

岩居享

ほか二名

被告

サンタクシー株式会社

主文

被告は原告岩居享に対し金四一二四万三九九七円と、原告岩居肇に対し金七五万円と、原告岩居はつ江に対し金七五万円とこれらに対する昭和五四年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その一を被告の、その余を原告らの各負担とする。

この判決主文第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告岩居享に対し金一億四五〇三万四七七四円及びこれに対する昭和五四年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告岩居肇に対し金二五〇万円及びこれに対する昭和五四年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は原告岩居はつ江に対し金二五〇万円及びこれに対する昭和五四年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告岩居享は、昭和五四年一二月一日午後三時五三分横浜市南区通町三丁目六一番地先県道八号線路上を、自動二輪車を運転して走行中のところ、右前を同一方向の進行中の、被告会社が所有し、被告会社の従業員訴外立屋清が運転するタクシー(横浜五五い四七四四)が、左側歩道上の客を乗車させるために左に寄り停止したため、その左前部扉付近に衝突し転倒した。

2  被告は前項のタクシー乗用車の保有者である。

訴外立屋清は、当時被告の従業員であり、その業務として走行中、左後方の安全を確認しないまま、急に左転把し急停止したから過失がある。

3  原告岩居享は別紙損害目録記載のとおり損害を蒙つた。

なお、治療費については、原告岩居享は、自ら一四五万一五、六七円を支払つたほか、被告が指摘する一七二万一八四九円、六万四、一四〇円をいずれも治療費として受領し、自動車損害賠償責任保険金の支払いは被告主張のとおりであり、磯子中央病院において四一万二、二三〇円を要している。

原告岩居享が日本鋼管健康保険組合から八六八万〇〇七二円の医療給付を得たことは被告主張のとおりである。これは同原告が予め請求から除外した治療費にかかる支給である。

また、被告が主張する日本鋼管健康保険組合から支給された八六八万〇〇七二円は、被告の弁済と同視すべきものではない。

4  原告岩居肇、同岩居はつ江は、原告岩居享の両親である。

原告岩居肇、同岩居はつ江は、原告岩居享の傷害、後遺症を前に著しい精神的苦痛を受け、これを慰藉するには各原告につき少なくとも二五〇万円を要する。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実はその前段を認め、後段は、訴外立屋清に過失があつたことを否認し、その余は認める。

3  請求原因3の損害が発生したことは知らない。

原告岩居享の主張する治療費支払いの経緯は次のとおりである。

被告は原告岩居享に対し治療費名目で一七二万一八四九円を支払つたほか、費目を特定しないまま六万四一四〇円を支払つた。

原告岩居享は、自動車損害賠償責任保険金一二〇万円を治療費として受給したところ、うち四一万二二三〇円は磯子中央病院に支払われ、うち三八万七七七〇円は被告に償還され、残りの四〇万円が原告岩居享の取得分となつた。

原告岩居享は他に日本鋼管健康保険組合から八六八万〇、〇七二円の医療給付を得た。

原告岩居享が指摘する損害の填補はそのとおりである。原告岩居享は他に日本鋼管健康保険組合から八六八万〇、〇七二円の支払いを受けている。

4  請求原因4の事実中前段は認め、後段は知らない。

慰藉料の額は争う。

三  抗弁

1  原告岩居享は、先行車がある場合、その動静に対応できる車間距離をおいて運転すべきなのに、制限速度を超過して、訴外立屋清運転車両に接近しすぎ、かつ、立屋が左の方向指示器を点滅させているのを認めながら、厳えて左側に進路変更したのであるから重大な過失がある。

2  立屋は、左フエンダーミラーにより後方に車両が無いことを確認したうえ左方向指示器を点滅させ、ゆつくり左に寄つて停止したものであるから過失はない。

四  抗弁に対する認否

抗言事実は否認する。

第三証拠

証拠に関わる弁論は書証目録、証人等目録に記載のとおりであるからここに引用する。

理由

一  請求原因1項の事実及び2項前段及び後段のうち訴外立屋清の過失を除く事実は当事者間に争いがない。

二  そこで訴外立屋清の過失の有無について判断する。

1  いずれも成立に争いがない甲第一一号証、乙第二号証、第三号証、第四号証、第八号証、第一一号証、証人立屋清の証言(但し後記措信しない部分を除く。)を総合すると次の事実が認められる。

(一)  訴外立屋清はタクシーを運転して、片側二車線道路のうち第一走行帯の第二走行帯寄りを走行中、進行方向左側の歩道上の客を乗せるため、左ウインカーを点燈し、直後に左転把した。

(二)  原告岩居享運転の自動二輪車は第一走行帯中心よりやや歩道寄りを時速約五〇キロメートルで走行し、他車を追い抜いて、先行の立屋運転のタクシーの左後部五メートル付近に接近した。丁度その時タクシーはウインカーを点燈し左へ寄り制動した。原告車も衝突を避けるため左へ転把制動したが及ばず、タクシーの左側面に接触転倒した。

2  証人立屋清の証言中には、同人が事故現場直前の信号待ちで一旦停止して発進後、直ちに左ウインカーを点燈して左へ寄り始めたとする部分があるが、乙第二号証によれば、事故現場付近は片側八メートルの二車線道路で、そのうち一・二メートルが路側帯となつており、右信号先の横断歩道を越えてから衝突地点まで三八・五メートル以上あるところ、衝突地点で停止した証人立屋清運転のタクシーの後部左側は歩道線石から一・八メートル、前部左側は同じく一・六メートル離れていることが認められ、甲第一一号証中の右証言部分と相反する部分と併せ考えると、証人立屋清の右証言部分は信用し難いものである。

また証人立屋清の証言中には、後方を確認したが原告岩居享運転の自動二輪車を発見しなかつたとする部分があるが、ルームミラー、サイドミラーのいずれにも自動二輪車が映じなかつたことを納得させるに足る証拠はない。そして、左へ車線を移動させる場合には、転把の直前に直接目で左側方を確認すべき義務が運転手に課せられていることは言うまでもない。右の証言部分は、転把直前に十分な確認をしたとする趣旨にとるときは、信用し難いものである。

3  以上の事実をもとに判断すると、訴外立屋清には、転把の直前に十分な後方確認をしなかつた点、十分な時間的余裕を置いて合図をしなかつた点に過失があり、一般に道路左側が二輪車の優先通行帯の観を呈し、これを強ち否定すべきものとも言えないこと、訴外立屋清は第一走行帯の第二走行帯寄りを走つていたことを考慮すると、過失の程度は極めて大きい。しかし、原告岩居享も、不用意に前車に接近しすぎた点は重大な落度であり、走行安定性において劣り、四輪車に比し、前車の運転手にとつて視認のやや困難であることから考えて、前車の真後につくときは車間距離を十分にとり、前車の左後方をとるときは、自らを相手運転手に確認させやすい位置に置くなど十分の配慮をすべきであつた。

三  次に原告岩居享の損害について判断する。

1  治療費 三四五万七〇四六円

いずれも成立に争いがない甲第一号証の一、三ないし六、八、九、同第一一号証、同第一二号証、原告岩居享本人尋問の結果によれば、原告岩居享は、本件交通事故により脊髄損傷等の傷害を負い、磯子中央病院、横浜南共済病院、神奈川県立七沢障害交通リハビリテーシヨン病院、日本鋼管病院、国立身体障害者リハビリテーシヨンセンター病院などにおいて治療を受け、一三二万二九六七円を支出したことが認められる。

成立に争いがない甲第一号証の七によれば、原告岩居享は、日本鋼管病院に入院中、テレビリース料一二万八六〇〇円を支払つたことが認められるが、これが治療費に当るものとは認められない。

他に治療費の発生を明らかにする証拠はないが、自動車損害賠償責任保険から、磯子中央病院に対し治療費として四一万二二三〇円が支払われたこと(前掲の書証中には同病院への治療費支払いを明らかにするものは含まれていないから、重複は生じない。)、被告が原告岩居享に対し、自動車損害賠償責任保険からの償還分を含め、治療機関に対し一七二万一八四九円を直接支払つたこと(被告はその支払いを明らかにするため、乙第一三ないし第一六号証、同第一八号証ないし同第二五号証を提出しているから、前掲の書証により明らかとなる治療費の外に右金額の治療費を要したとする趣旨であると認められる。)はいずれも当事者間に争いがない。

以上によれば、原告岩居享は、本件交通事故により、治療費三四五万七〇四六円の損害を受けたものと認めるのが相当である。

この外、日本鋼管健康保険組合が原告岩居享に対し八六八万〇〇七二円の医療給付を行つたことは当事者間に争いがないが、第三者の行為に基づく損害に関して給付がなされたときは、同時に、被害者の有する損害賠償請求権は、当然に保険者に移転するものとされるから、前記のとおり、原告岩居享に損害の発生に関して自らも落度があつたから、受給分のうちには被告の責任に属しない部分があるとすべき場合にも、本訴においてこれを問題とする余地はない。

2  文書料 一万六五〇〇円

成立に争いがない甲第二号証によれば、原告岩居享は、治療を受けた機関に対し、診断書料計一万六五〇〇円を支払つたことが認められ、この事実と本件が交通事故による損害賠償請求事件であることから、右の支払いは損害の回復のためになされたものと推認でき、右金額の損害を蒙つたものと認めるのが相当である。

3  入院雑費 六一万二八〇〇円

甲第一号証の一ないし九、原告岩居享本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認める甲第一〇号証によれば、原告岩居享は昭和五四年一二月一日から継続して昭和五六年末まで及び昭和五七年一月中に少なくとも四日間入院生活を余儀なくされたことが認められる。

入院に伴い通常の生活費を超えて諸雑費を要することは経験則上明らかであり、負傷の程度、年齢(原告岩居享は昭和三七年七月二九日生れであることは成立に争いがない乙第五号証の記載から認められる。)をも考慮すると、右の費用は一日に換算して八〇〇円を下ることがないと認めるのが相当であり、入院日数七六六日(昭和五五年は閏。)を乗ずると六一万二八〇〇円となる。

4  付添費 九九万七五〇〇円

原本の存在と成立に争いがない乙第二二号証ないし第二五号証によれば、被告は原告岩居享に対し、昭和五四年一二月一日から昭和五五年一月五日までの看護料として二七万四一二六円を支払つたことが認められ、甲第一号証の二によれば、原告岩居享は看護料として昭和五五年一月六日から同年二月二九日までの分四四万〇二三九円を支払つたことが認められ、右の各事実から、右の各期間右同額の費用を要する看護が特に必要であつたと推認しうるが、右金額はいずれも既に治療費として計上済みである。

傷害の程度により、通常の治療費では賄い切れない付添看護を要する場合があることは経験則上明らかであり、原告岩居享については後に述べるとおり傷害の程度は重く、これに該るものと解すべく、甲第一〇号証によれば、原告岩居享の家族は、昭和五五年三月一日前段で認めた期間の終りの日の翌日から昭和五七年一月まで(退院の日を適確に示す資料はないが、同月中に少なくとも四日間入院したと認むべきことは前記のとおりである。)の間に二八五回原告岩居享の入院先を訪ねたことが認められ、右の事実から、右日数通つて付添うことが必要であつたと推認しうる。諸般の事情を考慮し、一日当り三五〇〇円を下らない金員が付添のために必要であつたとするのが相当である。これを乗ずると九九万七五〇〇円となる。

5  通院治療費 四四六一円

成立に争いがない甲第三号証によれば、原告岩居享は退院後三回国立身体障害者リハビリテーシヨンセンター病院に通院し、四四六一円の治療費を支払つたことが認められ、右事実から、右金額相当の治療を要したものと推認しうる。

6  通院交通費 認めない。

通院に費用を要することは明らかであるが、これを適確に示す証拠はない。

7  通院付添費 認めない。

後記のとおりの原告岩居享の現症であれば、通院に介助を要することは明らかであるが、これを適確に示す証拠はない。

8  車椅子・歩行装具 一六万五〇〇〇円

原告岩居享本人尋問の結果及び成立に争いがない甲第四号証によれば、同人は本件交通事故の結果下半身が麻痺し、起居が不自由なため車椅子、歩行装具を使用せざるを得ず、これが購入に一六万五〇〇〇円を要したことが認められ、やむを得ない出費と認める。

9  傷害者用自動車購入費 認めない。

起立歩行ができなくなつた障害者が生活圏を広げるために特殊仕様の自動車を使うことは有益であり、必要も認められるが、現在のように自動車の利用が一般に高い率に達している状態では、交通事故による損害は、仕様が特別であるために出費した余分の金員がこれに当ると解するのが相当である。成立に争いがない甲第五号証によれば、原告岩居享は障害者用自動車を購入して費用一六〇万〇六〇〇円を支払つた事実が認められるが、右の意味の差額は明らかでない。

10  免許取得費用 認めない。

前項と同じ理由により、特殊な免許であるために通常と別の教習を受けざるを得なくなつたことによる損害であるとか、早期に思わぬ取得費用の出捐を強いられたことによる損害であるとかの場合でなければ、交通事故による損害のうち加害者に回復させるのが相当であるものとは言えない。これを明らかにする証拠はない。

11  自宅改造費 八〇万円

成立に争いがない甲第七号証、原告岩居享本人尋問の結果によれば、原告岩居享の日常の生活に支障を少なくするために、手すりを設けるなどの自宅改造工事をせざるを得ず、これに四六万三七一〇円を支払つたことが認められ、やむを得ない出費と認める。

原告岩居享本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認める甲第八号証によれば、なお車庫、便所の改造などを考慮中で、その場合に費用一七〇万九〇〇〇円を見込んでいることが認められる。このうち車庫の設置については前記の自動車の購入に伴うもので、その全部が損害とは言えないものの、便所の改造などを含め、既に出費した分と併せ、事故時現価で原告岩居享主張の八〇万円を下らない金額が必要であると認められる。

12  将来看護料 認めない。

原告岩居享本人尋問の結果によれば、同原告は現在でも、入浴や用便について親の介助を要する状態であることが認められる。しかし同原告が自動車運転免許を取得し、自動車を購入したことは先に認めたとおりであり、この事実にてらすときは右の不便は、後遺症の存在によつて受ける精神的苦痛、労働能力の喪失によつて蒙る損害に対する損害の填補(後述のとおり。)によつて覆うことのできない損害であるとするには足りない。

13  将来治療費 認めない。

原告岩居享本人の症状が本訴以前に固定していたことは同原告の自認するところであり、その症状を保存し、悪化させないためになお費用を要すると認めるに足る証拠はない。原告岩居享本人尋問の結果中には、将来にわたり定期的に検査を受けるべき旨の医師の指示を受けているとの供述部分があるが、これを経なければ保存的治療の機を失する恐れが大きいなどの事情は見当らないから、事故と相当因果関係にある将来治療費相当の損害を蒙つたとはいえない。

14  将来車椅子・歩行装具費用 一〇万円

原告岩居享本人尋問の結果によれば、同原告は既に二台目の車椅子を購入し、これに一〇万円を要したことが認められる。

将来にわたり車椅子等の更新を要するかについては、その耐用年数など損害の範囲を適確に把握するに足る資料がない。

15  休業損害 認めない。

成立に争いない甲第一二号証によれば、原告岩居享は、本件事故当時神奈川県立立野高等学校二年生であつたことが認められるが、本件事故により学業の進渉が妨げられることがあつたにせよ、それを休業による経済的損失があつたと認めさせるに足りる証拠はない。

16  逸失利益 六一九三万三四六四円

原告岩居享本人尋問の結果によれば、同人は現在も下半身が麻痺し日常の動作にも不自由を感じていることが認められ、自動車損害賠償責任保険金は、その最高額である二〇〇〇万円が支払済みであることは当事者間に争いがない。

ところでかような症状がいつ固定したと見るべきかについて、原告岩居享は十分な立証をしていないが、昭和五六年五月二一日に症状が固定したとする同原告の主張を被告において強く争つた形跡はないし、甲第一号証の一ないし九を総合すると、昭和五六年五月二一日前後までリハビリテーシヨンに属さない治療が属されていたことを認め得ないではないことと併せ、同日を以て症状固定と認めるほかはない。

そこで、原告岩居享は同日現在労働能力を百パーセント喪失しているものと認め損害を算定することとする。

原告岩居享は昭和三七年七月二九日生れであり、一八歳から六七歳まで稼働可能と考え、昭和五五年度賃金センサスから全産業企業規模計全年齢平均男子の年収三四〇万八八〇〇円を得、中間利息の控除につき年五分の割合によるライプニツツ方式を用い係数一八・一六八七をこれに乗ずれば六一九三万三四六四円となる。

17  慰籍料 一八〇〇万円

本件事故により、原告岩居享が長期の入院治療、リハビリテーシヨン作業従事を余儀なくされたうえ、下半身麻痺の症状を今後一生抱えることになつたため受けた精神的苦痛は大きく、これを慰藉するには一八〇〇万円を要するものと認めるのが相当である。

18  物損 一一万六三九六円

成立に争いがない甲第九号証によれば、原告岩居享は、本件事故により、所有する自動二輪車を破損され、この修理に一一万六三九六円の支払いを余儀なくされたことが認められる。

19  過失相殺及損害の填補

原告岩居享には、前記のとおり事故発生に大きな寄与をした事実があるから、過失相殺として、以上の損害の合計額の三割を減ずることとし、更に当事者間に争いのない既払額合計二二五九万八二一九円をこれから減ずると、残額は三七七四万三九九七円となる。

20  弁護士費用 三五〇万円

原告岩居享が本訴の遂行を弁護士に委任したことは記録上明らかであり、事案の内容、認容額等の事情を勘案し、三五〇万円を本件事故と相当因果関係にある損害と認める。

四  その余の原告岩居享の損害について判断するのに、

1  原告岩居肇、同岩居はつ江が原告岩居享の父母であることは当事者間に争いがなく、両人が原告岩居享の傷害、後遺症を前に著るしい精神的苦痛を受けたことは弁論の全趣旨により明らかである。これを慰藉するには、原告岩居享の過失をも考慮して、各原告につき七〇万円を要するものと認めるのが相当である。

2  原告岩居肇、同岩居はつ江が本訴の追行を弁護士に委任したことは記録上明らかであり、事案の内容、認容額等を勘案し、各原告につき五万円を本件交通事故と相当因果関係にある損害と認める。

五  以上によれば、原告岩居享の請求は四一二四万三九九七円とこれに対する不法行為の日である昭和五四年一二月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、原告岩居肇、同岩居はつ江の請求は、各原告につき七五万円とこれに対する不法行為の日である昭和五四年一二月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 曽我大三郎)

損害目録

1 治療関係費 (1)乃至(10)合計 ¥10,213,436

(1) 病院(磯子中央、横浜南、神奈川総合リハビリ、鋼管病院、国立身体障害者リハビリ病院、日大板橋病院、横浜市大医学部病院、川崎医療生協病院の各病院)支払治療費等 ¥3,648,836

(2) 診断書費用(南共済、川崎医療生協等) ¥16,500

(3) 入院中諸雑費 但し入院期間昭和54年12月1日から同57年1月29日迄790日1日当り1,000円で計算 ¥790,000

(4) 入院中家族付添費 1日当り3,500円で計算 ¥2,765,000

(5) 退院治療費 但し昭和57年1月29日以降日立身体障害者リハビリ病院治療費で、昭和57年4月5日迄(昭和57年2月9日、3月12日、4月5日の3回) ¥4,461

(6) 同上通院交通費(横浜から所沢迄母付添1回3,000円) ¥9,000

(7) 同上通院付添費 1日2,000円と計算 ¥6,000

(8) 車椅子・歩行装具代 ¥165,000

(9) 障害者用車両購入費 ¥1,600,600

(10) 障害者用運転免許取得費用 ¥173,000

(11) 障害者用自宅改造費 ¥800,000

2 将来の治療関係費 (1)乃至(3)合計 ¥39,842,951

(1) 将来の看護料 但し、19歳の平均余命の新ホフマン係数に、1日当り3,500円の看護料で計算したもの。

{(26.3354+26.0723)÷2}×3,500×365 ¥33,475,418

(2) 将来の治療費1ケ月1回定期検診(費用現在で約4,000円)、1年に1回腎臓造影検査(費用約9,000円)として、平均余命まで計算したもの。但し交通費1回当り3,000円を加算する。

(26.20385×4,000×12)+(26.20385×9,000)+(26.20385×3,000×12) ¥2,436,956

(3) 将来の車椅子・歩行装具費用

車椅子は現在約100,000円で耐用年数は約1年

歩行装具は現在約100,000円で耐用年数は約2年

26.20385×(100,000+50,000) ¥3,930,577

3 休業損害 但し無職者であつたものの、本件事故により、学業の継続が不可となつたための損害として評価する。 ¥2,000,000

4 傷害慰藉料 但し最高度の重傷として、名古屋地裁の例を参考とする。

3,105,000+{(3,105,000-3,051,000)×11} ¥3,699,000

5 後遺症逸失利益 但し症状固定昭和56年5月21日労働能力喪失割合100パーセントとして計算する。

<1> 昭和55年度男子全労働者の給料総額

221,700×12+748,400=3,408,800

<2> 昭和57年度は、毎年5パーセントずつのベースアツプ分として

3,408,000×1.05×1.05=3,758,202

<3> 67歳まで新ホフマンで計算する。

3,758,202×24,416=91,760,260 ¥91,760,260

6 後遺症慰藉料 但し後遺症1級の金額 ¥15,000,000

7 物損(オートバイ修理費) ¥116,396

8 弁護士費用 本件では請求金額を一応の目安として、下記金額が相当である。 ¥5,000,000

以上1乃至7の総合計 ¥167,632,043

支払金目録

1 自賠責より(傷害分) ¥1,200,000

2 同上(後遺症分) ¥20,000,000

3 病院支払治療費分として ¥1,398,219

以上1乃至3の総合計(原告主張のまま) ¥22,597,269

損害金総合計より支払金総合計を差し引いた請求金額

167,632,043-22,597,269=145,034,774

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